「んで? 何やってんだお前さんたち」 時雨はスーパーでせっせと買い物に励む、光輝と悠を見つめていた。 「いやぁ、ねーちゃんにお使い頼まれて……」 光輝は苦笑いしながら、ちょうど手に取ったスナック菓子を買い物かごの中に放り込んだ。 「ねーちゃん? お前さん、姉貴とかいたのかよ?」 「バイト先の何でも屋の店長のこと。……光輝、次はリットルサイズのお茶、五本。あとジュースもいくつか」 時雨にそう返しながらも、悠はケータイのメール画面から目を離さない。 「へいへい」 「ねーちゃんも人使い荒いよなぁ……」 飲料水コーナーで最も大きいサイズのペットボトルを抱えながらつぶやく。 「多少はお金も出るはずだから、文句は言わない方がいいと思うけど」 言いつつ、悠は大量の使い捨て紙コップを二つ目のかごに詰め込んだ。 先ほど自分たちの上司から電話があった直後、『そうだ、ロビー用のお菓子のストックが無くなってきたので買ってきてねー以下欲しい物リストだよーん』というメールが悠のケータイに届いた。 そして今に至る、のだが。 「三万百十三円になります」 そうレジで言われ、いつも無愛想な悠の表情が凍りついた……ように光輝には見えた気がした。 「えーと、二人分合わせても……一万五千弱だから全然足りないな、これ」 「……時雨、お金持ってない?」 「わり、今日の昼飯分で全部使っちまった」 「……すんません、出直してきまーす」 ため息をつき、光輝は二つのかごを持ち直した。 「ちょっと待ってて。近くでお金下ろしてくる」 言うなり、悠は店外へ。 「……ふぅ」 レジから離れた場所で二つの買い物かごを床に置き、両手首を回す。 時計を見ると時刻は五時過ぎ。 「つかお前さんよ、こんなに何に使うんだ?」 かごから溢れんばかりの大量の菓子類と飲み物、そして使い捨て紙コップなどを時雨が指した。 「うちの何でも屋ってちょっと特殊でさ」 『協会』のシステムの説明を時雨に始める。 「普通の便利屋って、来た仕事を従業員に適当に割り振るじゃん? うちはやりたい奴がやればいい、って事で優先順。たくさん仕事をやった奴はその分給料も高くなる、って感じ」 以前「ねーちゃん」が説明していた事を思い出し、そのまま続ける。 「そういうわけで、仕事引き受け用の待合室みたいなのがあんの。これはそこに置くお茶アンド菓子だわな」 「ふーん」 続いて言おうとした「まあ、飲み食いしてるのはほとんどねーちゃんだけなんだけど」という言葉を飲み込み、 「ただしさ。俺とか悠とかはねーちゃんのお気に入りらしくて、直接仕事を言いつけられる事が多いんだよなぁ。こんな買いだしみたいに」 上司のにぱーとした笑顔を思い浮かべ、ため息をつく。 相手はシガレットチョコを咥え、腕を組んだまま話を聞いていたが。 「面白そうじゃねーか、それ」 「……え、マジで? 今の俺の話聞いてましたか時雨さん?」 「もちろん聞いてたぜ? 出来高制だったらたくさん稼げんじゃねーかって」 「……そうだといいんだけどなぁ」 そんな事を話していると、悠が戻ってきた。 「お金、下ろしてきた」 「お、サンキュー。じゃ、行きますか」 そして買い物を済ませ、店の外に出ると。 「……? あ、わり、電話だ」 ふと、隣を歩いていた時雨がケータイを取り出し、どこかと話し始めた。 「……あ? 千条が今日も休みで先輩たちがキレてる? ……りょーかい、今から戻っから待ってろ」 そして、通話を終了すると共に舌打ちする。 「ったくよー、どこほっつき歩いてんだアイツ」 「?」 「うちの部員でしばらく顔出してね―奴がいんだよ。ま、それの尻拭い行ってくっか」 言うなり、彼女はそこで立ち止まった。 「つーわけで、わりーけどオレここで学校戻るわ。じゃーなー、お前さんたち」 「さて、と」 時雨が去っていくと同時、光輝は大量の商品が詰められたレジ袋を持ち直した。 時刻は五時半。そろそろ陽が落ち、周囲が闇に包まれる時間帯だった。 「これねーちゃんに届けて、とっとと帰りますか」 言った直後、悠がケータイを取り出した。 「あ、またメール」 「……えー、まだ何かあんの?」 だが、彼女のだけではなく、光輝のケータイも同時に事なるメロディを不協和音のように流し続けていた。 新着メール一件あり。 件名『全員に告ぐ!』 本文『緊急だよーん、全員集合♪』